Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

"Every Breath You Take" - The Police, 1983

上京して10ヶ月、大学から6年半付き合っていた女の子を失った僕はひどく傷ついており、回復するまで1年ほどかかることになる。
残業を終えて深夜部屋に戻り、ビールを飲みながら涙にくれた。ウィスキーに手が伸びると延長戦だ。実のところ、ほぼ毎晩延長戦だった。
音楽は、聴くよりもよく歌った。引っ越しシーズン終盤にようやく探し当てた部屋は線路わきのマンションで、1Kにしては広すぎるキッチンと防音の良さが気に入って家賃に目をつぶり借りた部屋だった。1階が駐車場になっていて、僕の部屋は2階だった。なるべく指の腹で弾くようにすれば、十分歌える環境だった。
とはいえ、ギターを手にしても弾ける曲は限られている。歌本を買ってみても、8割はクソのような曲だった。

弾き始めは、コードを覚えているお気に入りの曲を何曲か歌う。レパートリーが尽きると、歌本から数少ない名曲を選ぶ。
このあたりでウィスキーに手が伸びる。延長戦へ突入だ。
お気に入りの曲の耳コピを試みる。偶然うまく見つけられることもあるが、次の日には忘れている。大抵はなかなか見つけられなくて、ようやく探し当てた1フレーズだけを繰り返し歌って諦める。
そろそろ寝ようとするとき、最後に1曲だけ、と思い指が動くのは、Every Breath You Take だった。
歌い始めて、少し後悔する。酒も手伝って、僕はこの曲を歌うたびに涙が止まらなくなってしまうのだ。

Every bond you break
Every vow you break
Every smile you fake

このフレーズに、何度自分を重ねただろう。
言わずと知れた名曲だが、僕はこの曲が一世を風靡した時代を知らない。ポリスやスティングの曲なら、この曲よりも好きな曲はある。でも、この曲ほど涙を流した曲はない。

そんなわけで、アンプラグドでスティングが歌ったEvery Breath You Takeなんかを聴くたびに、この時の気持ちが蘇ってくる。客観的にみると、とてもイジイジしていて自分の世界に入り込んでおり、やけに恥ずかしい。