Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります


さっきまで、息子の背中をずっと叩いていた。


このところ息子の咳が続いている。熱は無いし、鼻が詰まる以外は風邪らしい症状も見せないのだが、朝晩咳が出る。特に今日は、ベッドに入ったもののなかなか寝付けないほど咳が止まらなかった。娘は娘で機嫌がよろしくなく、気分を変えるため妻からバトンタッチして抱っこしたり、水を飲ませたりしていた。息子にも冷たい水を飲ませたり、マスクをさせてみたり、保冷剤をガーゼでくるんで口元にあてて冷たい空気を吸わせたりしたのだが、一向に咳が収まる気配がない。娘がウトウトしてきたので妻に預け、思い立って息子に背中を向けて寝るように言ってみた。


背筋に沿って、トントンとやや強めに叩く。最初咳が出ていたが、どうやら少し楽なようだ。しばらく続けていると、呼吸が寝息らしくなってきた。眠りを妨げないよう、一度叩くのを止めてみたが、程なく咳が出て目がさめてしまった。改めて背中を叩く。息子の寝息が本格化するまで叩き続ける。叩くのを止めたあとも、しばらく寝室の僕のベッドに横になって息子の様子を見ながらiPhone2chのまとめなんかを見ていた。息子の寝息が深くなり、いびきのようになってきたのを確認して、寝室を出た。


---


僕は喘息だった。息子ぐらいの年齢の頃が一番ひどかったと思う。同じような二段ベッドの上で、仰向けはもちろん横向きにもなれず、屈み込むようにして腕を張って身体を支えながら必死に呼吸していた。疲れ果ててうずくまるようにして眠った。
そのころ、僕の母親も、息子と同様5歳離れた妹を抱えていた。もちろん、病弱な僕を最大限心配してくれていることは分かっていた。真っ暗な寝室で、苦しさのあまり母親にすがろうと隣を見る。妹の横で、母親は健やかな寝息を立てていた。父親はいつもいなかった。舅と姑と家業をこなし、幼い妹と病弱な息子の面倒を見ていた母親の疲れはいかほどだったろう。僕は、そんな母親を起こすことにためらいを感じてしまうことが多かった。


---


咳をする息子を寝室に残して、ブログを書き始めることもできた。咳は体力を消費する。いずれ、疲れてくれば咳をする力も失い、そのまま眠ってしまうのだ。
でも、もしあの夜、父親がベッドの横で僕の背中を叩いてくれたなら。そう思って僕は、踵を返して寝室へ戻り、息子の背中を叩いたのだった。


小さい頃に見た父親の手は、大きくてたくましく、そしてとても汚れていた。心の底で、僕はその手に背中を叩かれたりさすられたりすることを求めていたのかも知れない。
果たして僕の手は、立派な「父親の手」になっているのだろうか。