いのちスタンド・バイ・ミー
あの日、2011年3月11日14時46分。
揺れ続ける地面の上で、僕らは何を思ったろう。
僕はまず、ストーブの火が燃え広がることを心配した。周りの机からモノが次々と落下し、ロッカーが倒れ、天井から埃が舞い落ち、僕の逃げる道など無かった。それでも、火を止めなければならない、燃え移らせてはいけないとそればかり考えていた。燃えたら全てを無くす。ここにいる大切な人たちの命も奪ってしまう。そう思った。
不思議と、子どもたちや妻のことは考えなかった。託児所にいる娘と幼稚園にいる息子は、ひとまず周りの大人が守ってくれるだろうと任せた。大河原にいる妻は、何とか自分の命を守ってくれるだろうと信じていた。揺れが収まり、ひとまず身の回りの状況を確認したあと、僕は無我夢中で娘を迎えに行き、帰ってきた妻に娘を預けると、急いで息子のもとへ向かった。
貴方は、揺れた時、何を思っただろう。
もし、貴方が何かをしなければと思ったなら。そしてそれが、「誰か」の命を守るための行動であったのなら。その「誰か」とは、その日その場所で貴方が守るべきと思った、とても大切な人だ。
では、たった今、あの時と同じように揺れたらどうだろう。
もし、あの日と場所や時間や状況が異なるのであれば、やらなければならない何かは変わってくる。そして、守るべき「誰か」も変わってくる。
大切な「誰か」は、いつも貴方の側にいる。僕の側にも、僕にとって大切な守るべき命がある。そして、今はそんな「誰か」と一緒に同じ時間を共有する、かけがえの無い時間なのである。