Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

薄暮ラストイヤー

夕暮れの町、街灯が灯る直前の薄暗い街並みをクルマで走るとき、ふと震災後の記憶を思い出す。


あの時の空気感、緊張感、不安感のようなものが一気に舞い降り、一瞬で去っていく。もう少し、その記憶に浸りたい気もする。浸って、あの時の心を振り返って、忘れてはいけないものを見つけたり、あるいは見えていなかったものが無いかを探ってみたいと思う。ほのかな記憶の糸口を辿って、またあの時の記憶を呼び戻そうとする。しかし、その糸は日に日に細く短くなっていき、気がついたときには街灯はこうこうと道路を照らし、僕は諦めて日常に戻るのだった。


焦る。あまりにも色々なことが目の前を通りすぎてしまい、大切な何かをいつしか忘れてしまっていたのではないかと焦る。もう一度、あの時の感覚に戻って、忘れていないかを確認したい。


しかし、それは恐怖である。あの時の感覚というのは、とにかく今までにない張り詰めた状態であり、そこに戻ることはとても怖さを感じる。だからこそ、僕の心は忘れようとしたのではないか。前へ進み、明るい生活を送れるように、その記憶を厚いシートで覆ってしまったのだ。掘り起こそうとする気持ちと、隠し通したい気持ちがせめぎ合っている。


もうすぐ1年。僕は1年前の自分に向き合えるのだろうか。