Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

目になったスイミー


「地域に溶け込む」というのは、言葉よりもずっと難しいものなんだと思う。どうもこれは、僕のような人間にはあまり感じないもののようだ。つまり、田舎で常に地域の人々と交流しながら生まれ育ち、そこを離れたとしても都会という地域性が失われたところへ一時期住んだだけの人間である。都会から再び田舎に戻ってきたとしても、「見ず知らずの地域に溶け込む」と「見知った地域に戻ってくる」とでは全くレベルが違う。
そして悲しいことに、未だにそんな「地域に溶け込む」ということに苦心するのは、主に女性だ。昔からは減ったとはいえ、まだまだ嫁入りという文化は失われていない。かくいう僕自身が自分の田舎へ嫁さんを連れ帰っている。


そんな女性たちが地域へ溶け込む糸口の一つが子どもだ。公園デビューから始まり、保育園での父母会、そして幼稚園でのPTAと進んでいく。子どもが友達同士というきっかけから同じような境遇の女性と知り合い、交流し、その中から特に仲の良い存在が育ってくる。もちろん良いことばかりでは無かったのだろう。そんな女性コミュニティには様々なカタチがあり、時には疎外感を味わったり、仲間外れにされることへの不安からストレスを感じることもあっただろう。でも、もちろんそんなことばかりではない。僅かなコミュニケーションを繰り返して信頼関係を築き、お互いに精神面で助けあい、地域へ溶け込む糸口となり、時には生涯にわたって寄り添える仲間と出会うことだってある。


僕も昔は誤解をしていた。女性だけのコミュニティが、とてもネガティブでくだらないもののように思えていた時期がある。しかし、考えてもみてほしい。今や完全なる専業主婦というのは少なくなってきている。女性は自らも仕事を持ち、しかし田舎特有の慣習にある程度沿いながら家事や育児もこなす。女性だけのコミュニティは、時間が有り余っている女性たちの暇つぶしではなく、少ない機会を積み重ねてようやく創り上げる貴重なものになってきているのだ。


本日、息子が通う幼稚園で、母親たち有志によるステージがあった。妻もその末席に加えていただいた。とても素晴らしい内容だった。彼女たちは育児や家事や仕事の合間を見つけて練習し、小道具を準備し、この日に備えてきた。わずか15分程度のステージ。しかしその歌声や動きは、練習時間の少なさを信頼感と度胸、そして子どもたちへの思いで埋めた完璧なものだった。僕は思わず涙が溢れてしまった。なんて素晴らしいステージだったのだろう。スイミーは、他のサカナたちと一緒に大きなサカナになったのだ。


舞台から降りた女優たちがコーヒーを飲みながら休む。これからランチを摂りながらの打ち上げだ。僕はリーダーの方と妻に声をかけてホールを出た。冷たい風の割には、明るい太陽だった。