Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

She wanna go home.


新居での生活は、5/28の荷物搬出&搬入から数えて昨晩で4回目の夜を迎えた。築20年のやや古い中古住宅の中で、震災で亀裂がはいったためユニットバス化した風呂は、一番新しく綺麗な場所だ。
娘が風呂に入りたくないと泣く。いつも気が強く意志のはっきりした子だが、昨晩は特に強情だった。それこそなだめてもすかしても、一向に聞き入れてくれない。その前の日までは、比較的ウキウキと新しい風呂に入っていた。前の家でも風呂を嫌がることはあったけれど、新しい風呂が目新しいのか楽しそうに入浴していたように感じていた。でも昨晩は違った。どうしても嫌なのだった。


僕は諦めて、娘を抱いて外に出てみた。息子が泣きわめいて何も聞き入れなくなったときも、よくこうして抱いて外に出た。外には月や星や車や建物があって、気分が変わって落ち着いてくれることがあるからだった。娘を抱き、家の前の道路を渡って向かい側まで行ってみる。やや薄暗くなってきた空の下、遠くに電車が見えた。


少しずつ落ち着いた娘が、僕にとっては意外な言葉を口にした。
「帰りたいの」
それは、以前住んでいた家に帰りたいという娘の声だった。不思議なことに、娘の眼は以前の家がある方角を向いている。
「おうちに帰りたいの」「新しいおうち怖いの」「おふろとネンネのところと、怖いの」


そうか。そうだったのか。君は帰りたかったのか。生まれてから2年1ヶ月過ごしたあの家に、帰りたかったのか。








僕らにとってはただの引っ越しだったけれど、君にとってはそうではなかったんだね。そんな気持ちを分かってあげられなくてごめんよ。


娘は僕にジッと抱っこしてくれた。遠くで下りの貨物列車が、ガタンガタンと通り過ぎていった。