Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

泥とユニフォーム

前日から予測されていたことだけれど、6/20の1時45分には、台風4号宮城県を絶賛通過しておった。暴風雨の中仕事場について、もう今日はセールスどころじゃないなと雨合羽と長靴で完全武装。真っ暗な雨に向かって出発する配達スタッフの皆さんにできる限り声をかけた。
「くれぐれも気をつけて!」
「まずは命ですからね。危ないと思ったら引き返してください!」
何人かでも、それで怪我が免れていたらいいなあ、そう思った。


やや風も落ち着きつつあった3時半頃、配達スタッフから電話が入る。冠水のため進めないとのこと。無理をしないよう、迂回して別ルートで配達するよう指示し、家の前まで行けなかった2件は水が引いたあとに配達することにした。4時半頃、少し空が明るくなってきたころを見計らって現場に向かった。腰まで届くような深さの水が一帯に広がっている。とりあえずiPhoneで写真を撮り、店に戻った。

戻るやいなや、田んぼに車が落ちたとの連絡。現場に急行すると、道沿いにある低い田んぼに右側の車輪が取られ、泥にハマって抜けられない状況になっていた。道が狭いため、店の車が入っていけない。幸か不幸かお客さんは元社員さんのご実家だったので、車をお借りして何とか引っ張りだした。


一度家に戻って着替えと食事を済ませ、子どもたちを学校やら保育園に送り出す。
すぐに店に戻り、僕が家に行っている間に連絡が入ったもう1件の冠水地区を合わせて3件分の新聞を持って車に乗り込んだ。


3件とも水は引いていて、新聞を届けると大変喜んでいただいた。配達が遅れた件を謝罪しながら直ぐに店に戻る。帰る途中、白石市内のある小学校の脇を通る。わざわざ遠回りしたのは、どうやらここにサッカー日本代表香川真司選手が来るという噂があったからだった。車をゆっくりと走らせながら覗くと、サッカーのペイントがされたトラックや報道陣の姿が見える。河北新報社の支局記者の姿を見つけて、ああ香川が来るんだなと確信した。


一度店に戻り、配達スタッフがハマってしまった田んぼの持ち主のお宅への謝罪に向かう。ひどく眠かった。
ふと足元を見ると、青い長靴は泥だらけだった。くたびれた車は、ややクラッチの遊びが大きかったので、注意深くギア・チェンジして山の手へ向かう坂道をのぼる。


僕も昔、サッカー選手を目指してたんだよな。そう、あの香川みたいになりたかったんだよな。彼も泥だらけになってきたんだろう。だからこそ、これからあの赤いユニフォームに袖を通せることになったわけだ。


目をこすりながら、坂の途中でギアをひとつ落とした。