Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

穴の中のフラガール(トヨエツカッチョエエ)

遅ればせながら、「フラガール」を観た。
http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tymv/id324255/


震災で被害を受けた方がたくさん避難している福島県いわき市を舞台にしているとか、時代の流れに乗り遅れた会社が発想の転換で全く新しい事業を始めることとか、松雪泰子蒼井優の魅力的な演技とか、講評を書くなら書かねばならない点が幾つか思いつく。
しかし!僕が何だか良くわからないが最も共感したというか「えがったなや〜」と思ったのは何しろトヨエツだ。トヨエツかっちょええ。炭鉱夫にしてはイケメンすぎるし、兄として妹を陰ながら応援する姿も超イケメンである。炭で真っ黒な顔すらイケメンだ。かっちょええ。相変わらずトヨエツはトヨエツだ。


トヨエツは、蒼井優が演じるフラガールリーダーとなっていく少女の兄貴である。代々炭鉱夫の家だが、昔お父さんを落盤事故で亡くし、それからは気丈な母親と幼い妹の三人家族で暮らしていた。彼自身も炭鉱で墨だらけになりながら働いており、石炭不況により人員削減を決定する会社と対立する労働組合側の一員でもある。
そんなトヨエツだが、妹が仲間たちの反対を浴びながらも懸命にダンスに打ち込む姿を見て、密かに応援するのだ。母親と喧嘩する妹に声をかけ、松雪泰子演じるダンスの講師に最初反発するも徐々に同情を寄せ、仲間の誰もが反対するハワイアンセンターに必要となったストーブを探し歩く。
そして、炭鉱の中で妹のフラガール姿が写っているチラシをそっと広げるのだった。真っ暗な穴の中、真っ黒な手で大事そうにチラシを広げ、妹の姿を見てニコリと微笑む。この映画のラストシーンは、そんなトヨエツの笑顔で終わる。いつものように穴の中に向かって出発するトロッコ列車。そこに乗り込む前に、あのチラシの背景になっている山を見つめて、ニコリと微笑むのだった。わー、泣ける。イケメンだ。かっっちょええ。そして泣ける。トヨエツサイコー。


ふと思い出したのは、震災後2週間ほどたった頃のこと。東京に避難していた妻から、娘が初めて自立歩行する映像がメールで送られてきて、その愛くるしい姿に勇気付けられた記憶だった。苦しいとき、つらいとき、娘の歩く姿を繰り返し見ては顔を上げた。何故か笑顔になった。愛するもののために頑張ろうと力を振り絞った。


どんなに大きな仕事も、毎日の一瞬一瞬はとても地味なものだ。ときには、夢、希望、理想、そうした思考をストップしなければ続けられないこともある。しかし、今のこの一瞬の積み重ねが、愛するものの笑顔に繋がるんだと信じることこそが、僕らを動かすエネルギーとなるのだ。


きっとトヨエツ(演じる兄貴)は、体が動かなくなるまで穴の中で石炭を掘り続け、妹の活躍を聞きながら酒を飲むことを何よりの楽しみとし、少しだけ早い人生を閉じたのではないかと思う。
それを、地味で面白味のない平凡な男と、誰が笑うことができようか。誰かの笑顔のためと信じて毎日を過ごし、人生を全うすることが、本当の幸せなのではないだろうか。