Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

江戸川橋・タイム・ストッパー

東京での夜は、久しぶりに会った友人と翌3時まで飲み、酒と眠気でフラフラのままホテルへ戻って気を失うように寝た。
翌日は予定が満載だった。前の会社に行き、その後は都内を回って夕方には白石に戻りたかったので、7時には目覚める必要があったのだが、起きられる自信は全く無かった。


ところが、朝7時半にはベッドから起き上がりシャワーを浴びていた。いつもなら二日酔いで痛むはずの頭もスッキリしていた。眠気もサッパリとしていて、むしろいつも以上に体が軽い気がした。何か変だなとは思ったけれど、この時点では特に気にもせず、ホテルの朝食を取って少し急ぎ目にチェックアウトした。


以前勤めていた会社へ、できるだけ以前使っていた路線を使って向かう。昔の上司や先輩と会うんだと思うと何故か緊張した。もしかしたら同じ電車に知ってる人がいるかも知れないとキョロキョロしていた。


到着すると、既に昔の上司お二人は1階まで降りてきており僕を歓迎してくれた。途中、僕が在籍時に他部署へ異動した先輩も合流し、和やかな時間を過ごすことができた。それから、また別の上司も時間を割いてくださり、何人かの先輩とも挨拶を交わした。昔僕がやっていた仕事のことを聞かれ、記憶の片隅から引っ張りだして何とか答えることができた。
あ、僕はここにいたんだな。僕が存在していた事実を、僕自身が客観的に確認することができた。


会社を出て、有楽町線に乗り、昔住んでいたマンションまでの同じルートを辿る。Walkmanのディスプレイに並ぶ無数の曲の中から、最も古くから持っているアルバムの一つを選んで再生した。電車が動く。電車はすぐに地下に入り、僕の視線は向かい側に座る人のバッグや広告が流れ続ける液晶ディスプレイや右から左へ飛んでいくトンネルの壁に向いた。


懐かしい音楽が流れる。


昔住んでいたマンションの最寄り駅に近づくにつれ、両足の膝から下がしびれるような感覚に襲われた。電車に乗るとすぐに眠くなるはずなのに、全く眠気は訪れなかった。最寄り駅に着くと、ヘッドフォンを外した。改札を出て階段を登り地上に出た。猛烈に暑い空気とたくさんの車が吐き出すゴオオという音、何も変わらない景色、そして無数の思い出が飛び込んでくる。


時間が止まったような気がした。


僕の目から涙が溢れた。


半透明になった数年前の自分が、僕の前や横を通りすぎていった。通り過ぎるときに、僕の中にその時の感情を置いていった。あまりにもたくさんの自分と感情が通り過ぎ、僕は涙が止まらなかった。