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乾くるみ『イニシエーション・ラブ』2007,文春文庫 −ミステリー小説キャンペーン

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)


ミステリー小説ではなく恋愛小説なのだろうけれど、まあ見事な叙述トリックが仕掛けてある。実は途中、「ん?」「んんん?」と思ったところも多少あるけれど、深く考えないようにして騙されてみた。ちょっと分からないところがあって読み返して、あとがきにある解説を読み、ぐぐってみたら丁寧な解説サイトまであったのでふむふむと納得した。
途中堕胎という悲しいエピソードはあるけれど、世の中の多くのミステリー小説のようにバタバタと人が死んでいくわけではないし、小学生のときにドラマの中で見ていた80年代の恋愛というものを何となく懐古できたこともあって、まあ幸せな騙されっぷりだった。


僕が特に上手だなあ、と思ったのは、時代背景の描き方だ。1980年代半ばから後半ごろの話なのだが、現在の話と置き換えてもさほど違和感が無い。「男女七人夏物語」とか「BOOWY」とか出てくるけれど、その時世の特徴をよく捉えていながら、時代遅れ感が薄い。どうして違和感が無いのかよく分からないけれど、とにかく上手だと思う。むしろ、合コンで手品とか残業してファイル消失とか免許取って車買うとか、今も昔も全然変わってないんだなあと思った。80年代に生まれた文化の強さたるや。


文章自体も短いので、軽く読めるしオススメです。


しかし、次に読もうとしている小説はやや暗いらしいんだよな。ちょっと怖い。