Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

殊能将之『ハサミ男』2002,講談社文庫 −ミステリー小説キャンペーン

ハサミ男 (講談社文庫)

ハサミ男 (講談社文庫)


相変わらずの叙述トリックで、騙されることにも慣れてきたよという感じだ。騙されるとやはり面白い。特にこの作品は、僕個人的にはなかなかグッドエンドだったので読後感も良い。まあ、小説とはいえ人が殺されているので倫理上グッドエンドとも言えないのだろうけれど。


少し長めの作品だったが読みやすかった。「わたし」と「磯部」の2つの視点で交互に描かれるのだが、それぞれがちょうど通勤電車や眠る前にちょっとだけという時間に読み終えることができる長さで区切られており、少々時間が開いてしまって前の部分を読み直すということが少なかったように思える。文章も軽快だったし、登場人物のキャラクターがはっきりしていて誰が主体となって動いてるかが分かりやすかった。まあその分叙述トリックに騙されやすくもなっているのかも。


「わたし」は二重人格で、話し相手として<医師>が出てくる。これがとても饒舌で引用好きで論理的であり、ちょうど解説者のような役割を担っている。「わたし」の自殺願望にとことんツッコミを入れるし、相対化できてとても良い。一般にこうした推理モノについては、登場人物の中に必然的に解説者が登場するのだろう。ドクター・ワトソンの世界で言えば、シャーロック・ホームズが正に解説者なわけだ。


そういう意味では推理小説としての定番的な路線は崩していないと思う。ちゃんと事件そのものにもトリックが潜んでいる。かつ叙述トリックで読者を騙す、とても高度なエンターテイメントだった。タイトルもグー。


磯部クンはどうしても大森南朋で再生されてしまった。若干年齢は違うけれど、若いころの大森南朋ね。きっと同感な人もいるんじゃないのかなー。