Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

伊坂幸太郎『グラスホッパー』2007(2004発表作品),角川文庫 −ミステリー小説キャンペーン

グラスホッパー (角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)


ラッシュライフ」でもそうだったけれど、この小説も複数の主人公により複数の物語が並行して流れ、最終的に1点に収束するような構造になっている。まるで隣り合った国家がそれぞれの歴史年表を淡々とつくりあげ、最終的に一つの国家に統一されてしまうような感覚になる。それぞれの国にそれぞれの物語があるように、それぞれの主人公にそれぞれの物語がある。もちろんそれは、この現実世界も同じだ。ある事件があったとして、関係する全ての人はそこに至るまでにそれぞれ自分が主人公の物語を紡いできているのだ。


伊坂幸太郎はこうした構造をとても上手に描く。上手で、しかもこの作品についてはハードボイルドですらある。そして最後、全ての伏線を回収して一気に全ての線を繋げてしまうのだ。本当に感心してしまう。ひょっとすると実際にグラフを書いて、時系列的に物語を並べて書いているんじゃないかと思ってしまう。もしそれが実際にグラフに表現する前に、アイディアとして頭の中に生まれるのだとしたら、確かにそれはジェラシーすら感じてしまう。


ミステリーと言っていいのか相変わらず分からないけれど、少なくとも劇中に何人もの人は死ぬし(なにしろ主人公3人のうち2人は殺しを生業としているわけだし)、倫理的には非常にバッドエンドだけれども、それでも読み終えるとその痛快さに笑ってしまうほどだ。疾走感と表現するのか、なるほど。


アマゾンで調べたら、どうもこの文庫のカバーには主人公3人のイラストが入っていたようだ。僕は古本屋で手に入れたためカバーは無かった。改めてカバーを見てみると、僕が想像していた3人のイメージとあまり変わらなかった。だが、カバーが無くて本当に良かったと思う。例えイメージが同じだったとしても、最初からイメージを与えられて読み続けるよりも、徐々にイメージを創りあげるほうがずっと楽しい。


次は重力ピエロ!