Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

カエルと手押し原チャリ

本当は、大学生になったら一人暮らしをしてみたかった。ところが、運良く実家から通勤できる大学に合格してしまい、通学を余儀なくされた。
修士への進学が決まり、深夜まで大学に残りセミナーの準備をすることや、急な授業時間の変更などを理由に一人暮らしを始めた。


色々なアドバイスを聞きながらの家探し。不動産屋を5〜6件まわり、物件を見た。大学生協主催の新入学生向け物件紹介にも手を出してみた。見つけたアパートは、

  • 築20年ほど
  • 1K(8畳+キッチン3畳)
  • 風呂トイレ別
  • 2階建て2階
  • 日当たり良好(過ぎ)
  • 駐車場つき
  • 最寄のバス停まで徒歩1分(大学まで原チャリ5〜10分)
  • コンビニまで徒歩1分
  • 38,000円
  • 八木山本町

であった。ベストである。
この部屋に2年住んだ。その間色々なことがあった。


アパートの南側には狭い庭があり、そこに物置があった。大家さんがこの物置に不燃用のゴミ袋を用意してくれており、度々そこへ取りに行く必要があった。ところが南側の庭は、良好過ぎる日当たりによってこれでもかと雑草が伸びまくっており、夜ともなると物置までの5mですら視界不良の状況だった。
ある夏の夜、どうしてもゴミ袋を取りに行く必要があって、部屋着の半ズボンにサンダルという格好でそのジャングルに無謀にもチャレンジした。昼間の記憶と足裏の感覚を頼りに、なるべく草の少ないルートを通って物置へ向かう。中間ほどで、何か大きな石を踏んだ。
「ペギッ!」
「うわっ!」
僕は予想もしなかった音に驚き、踏んだ方の足を上げた。すると、真っ暗な足元から握りこぶし大の物体が横に飛んだ。カエルだった。後日、これを再び夜、コンビニからの帰り道の歩道で見かけることになるのだが、あれを踏み潰さなくて本当に良かったと今でも思っている。


僕の原チャリはピンクから赤紫色をしており、非常に目立った。大学に入った頃から愛用しており、アパートの前に二重に鍵をかけて置いていたのだが、一度盗まれたことがある。警察に盗難届けは出したが、まあ外国にでも売られたんだろうと思い諦めていた。
ところが、しばらく後に警察から見つかったとの連絡があった。住宅地に乗り捨ててあったものを、ひとまず交番まで運んだから取りに来て欲しい、とのことだった。訊けば、ピンクのボディはかなり損傷しており、エンジンも掛からないらしい。自宅から数km離れた交番である。取りに来いと。ええ!? 取りに行ったが、大分辛かったという記憶しかない。


この部屋で修士論文も書いた。部屋中を計算用紙だらけにして、力尽きて眠るまでコタツでシャープペンを走らせた。慣れないLaTexを打ちながら、飲み物やタバコや夜食を買いに何回もコンビニへ走った。


八木山は、僕と同じような暮らしをしている大学生が沢山いる。その頃の僕は、夢を見ているつもりで偉そうに受け売りの言葉を吐きながら、実は目の前のことしか見えていなかった。今の大学生もさほど変わらないのではないだろうか。
そんな彼らに、動物園のゴリラはどんな風に映るのだろう。


そんなわけで、これから八木山動物園へ。
少しでも、大学時代の感覚で見ることができたらいいな、と思っている。