Hang In There

蔵王の麓で新聞屋さんが子どものこととか震災のこととか思い出などを綴ります

春、歩く、歩く、歩く。

東京に来て二年目の春。
ちょいヤバめのプロジェクトを担当し、とにかくクソ忙しい日々だった。終電で帰れれば良い方で、徹夜もよくあった。4月の残業時間は170時間を超え、翌月の給与は課長よりも多かった。(次の年、住民税などの控除額が一気に高くなった原因である。しかも残業が極端に減ってしまって手取り額を見て青ざめる26歳)


毎週土日はほぼデフォルトで休日出勤だったのだが、たまにご褒美のような休日があった。いつも行動を共にするような友達もつくっていなかったので、基本独りだった。
残業で貯まったお金は、どう使ったらいいのか途方に暮れた。


仕方がないので、街を歩いてみることにした。街を歩いて時間をつぶし、店に入って気に入ったものを買うのだ。


渋谷、青山、表参道、原宿を歩いてみた。場違いな気がした。たくさんブランド・ショップやセレクト・ショップを見つけたけれど、大抵は入る勇気が無いか、入っても買う勇気が無いか、そもそも特に欲しいものも無いという理由で結局ほとんど何も買わなかった。昼時、オシャレな店でランチなどできるわけもなく、吉野家松屋で済ます。昼抜きということも多かった。
御茶ノ水、神保町、神田を歩いてみた。とても落ち着く街だった。楽器店や古本屋を見つけて中に入り、大抵は何も買わず店を出た。一度だけ、思い切ってレスポールと録音機材を買った。今、そのレスポールは友人の家に居候し続けている。
新宿、大久保、高田馬場を歩いてみた。とてもうるさかった。どの店にも入らず、ただ黙々と歩いた。新宿のヨドバシカメラでLet's noteの初代機とAirH"を買った。Let's noteは長い間僕の仕事を支えてくれたが、東京を出る前に処分した。
暗くなるまで歩き、ヘトヘトになって部屋に戻り、何故か少し満足感に浸ってビールを飲んで寝た。


あれから8年。また春がやってくる。暖かな日差しは変わらないのに、僕自身は8年前から随分と遠いところに来てしまったように感じる。
もうあんな風に独りで目的もなく歩くことは、暫くの間無いかも知れない。僕には今家族がいるし、独りになれる貴重な時間は、何か目的を果たすために使いたいと考えるようになったからだ。
でも、歩いた街並みと風景、そしてちっぽけな僕の存在感と言いようのない満足感は忘れることがない。とても大切な時間だったと今では思っている。


そんなわけで、春を思わせる日差しを窓の外に感じながら、今日は娘と二人きり。
今年の春は、家族4人でどこかを歩こう。
独りで歩いた日を思い出しながら、4人で歩ける幸せを感じるのだ。